最強

 研究室に所属してから約1週間がたち、なんとなく全容が見えてきた。僕がいるのは物理化学の研究室でありながらも生体分子を対象とした研究を行っているので、レーザーによる測定とタンパク質の調製という、まったく異なる分野の仕事を両方こなすことになる。
 この2つをマスターできれば最強になれるなあ、とは思うが、つまりそれは最強にならなければならないことも意味しており、なかなか険しい道のりが待ち構えていることが推測される。一歩ずついこう。

 ラボに遅くまでいることが増えたので、自炊、特に生鮮食品の管理が大変になってきた。冷蔵庫の中にある人参はあと何日持つだろうかとかそういうことばかり考えている。
 今日の夕食はチョリソーととろろの味噌汁だった。意外と合う。

長い夏休み

 4月になったとたん大学のメールアドレスに理学研究科からのメールが届くようになり、急に「組織」に所属しているという実感を突き付けられる。今までもずっと京都大学にいたことに違いはないのだが、3回生までの間は自分で授業をカスタマイズしてふらふらしていただけ。授業を欠席したとして、それを誰かに連絡する必要は一切ない(ほとんど欠席してなかったけど)。そこから急に狭いコミュニティに入れられたので、温度差で風邪をひきかけているのかもしれない。

 「大学生は長い夏休みだ」というスローガンが時折使われるが、あながち間違いではないと思う。別にずっと遊んでいても良いが、そんな奴はだいたい最終日に痛い目を見るという点も併せて。

フレーバーコーヒー

 フレーバーコーヒー、と言うのを買ってみた。カルディで売っていた安価なインスタントのもの。ヘーゲルナッツのフレーバーのものを選んで試しに淹れてみると、確かにコーヒーにはないような甘い匂いが漂ってくる。ナッツ……と言うよりはバニラの雰囲気だが。いつものコーヒーの渋い香りと、鼻腔を焦がすような甘い香りが合わさって独特の安心感を与えてくれる。ものの匂いで何かを感じたのは久しぶりだな。
 香りの甘さに対して味はかなりすっきりとした控えめな印象。甘くて重い香りと苦くて軽い風味が交互にやってきて、なんだか癖になる。
 夕方、自室でコーヒーを飲みながら読書をする……なんとなくカッコいい気がするからそうしているだけ。いつもの生活に香りと味の二重奏を足しただけなのになんかちょっとゴージャスな気分になる。

 研究室の同期に、高校時代の先輩がいた。大学に入るときに浪人したから僕と同じ学年になっている。
 それなりに関わりが多い人だったからつい敬語を使ってしまうけど、向こうは「もう使わなくていい」と言ってくれている。なかなかの無理難題である。
 例えば浪人した高校の同級生に対して「学年が低くなったからこれからは敬語を使おう」と言うことはないので、学年の差の有無で敬語を使い分けるのは不思議な気もするが……
 まあ、どういう雰囲気で話をすれば円滑に回るのか、というだけの話ですわ。

 大学の敷地の入り口にいる警備員さんがリズミカルな背伸びをしていた。立ってることが重要な仕事だが、ただ立ってるのにも飽きたんだろうな。

Me at the labo

研究室生活が始まった。
カリキュラム的なものの開始は数日後なのでしばらくはやることがないが、とりあえず今日も研究室に足を運んだ。
研究室に所属すると環境の変化によるストレスが大きい、と良く言われるが、今のところはワクワクしている。
学術機関に所属して研究ができるんだぜ?

スーパーに行ったら「これは和風ドレッシングか」と店員に質問している人がいた。
店員は「これはシーザーサラダドレッシングです」と答えていた。
「和風ドレッシング」という、それなりに特殊な概念を狙い撃ちで購入する人なら、それが「和風ドレッシング」か否かぐらい識別できそうなもんなのにな……
と思ったが、おそらくあれは家族から頼まれて買ってるんだろうな。
じゃあ「和風ドレッシングはどれ?」と訊けばよさそうなのに、わざわざシーザーサラダドレッシングを手に取ってYesNo疑問文にしたのはなぜなのか、気になる。